はじめに

 HLAとは、全身のほとんどの細胞表面に発現し、疾病の発症、免疫の応答、移植適合性、薬剤の効果、移植の適合性などを決定している、免疫応答を司る細胞表面抗原です。HLAタイピングは、HLA遺伝子型アリルを調べる検査であり、移植医療、癌ワクチン、薬の副作用や疾患との関連を調べる研究に利用され、病気の新しい治療法や、患者にとって理想的な、ひとりひとりの遺伝子の違いに基づいた個別化医療の実現に大きな役割を担っています。

HLAとKIRとは

 HLAとは、全身のほとんどの細胞表面に発現し、疾病の発症、免疫の応答、移植の適合性、薬剤の効果、移植の適合性などを決定している、免疫応答を司る細胞表面抗原です。HLA検査は、HLAタイピングとも呼ばれ、HLA遺伝子型を調べる検査であり、移植の適合性、がん免疫療法、自己免疫疾患をはじめとして様々な疾患の発症や、薬 剤の副作用との関連を調べる研究に利用され、病気の新しい治療法や、患者にとって理想的な、ひとりひとりの遺伝子の違いに基づいた、精密医療(プレシジョンメディシン)や、個別化医療の実現に大きな役割を担っています。

 KIRとは、NK細胞の表面にある受容体(レセプター)で、主としてHLA抗原と結合することにより、造血幹細胞移植の拒絶や、GVHD、さらには、がんやウィルス感染症をはじめとした様々な疾患に対する免疫応答に関与しています。
※KIR…キラー細胞免疫グロブリン様受容体(Killer cell Immunoglobulin-like Receptor)

HLAとは

 HLA(Human Leukocyte Antigen, ヒト白血球抗原)とは、ヒトのMHC(主要組織適合遺伝子複合体)であり、古くは白血球の血液型として認識されてきましたが、白血球だけではなく、全身のほとんどの細胞表面にある分子です。HLA遺伝子には16,000種にも及ぶ型を有し、膨大な「多型」を有しています(対照的 に、赤血球の血液型遺伝子ではA型、B型、O型の3種の型しかありません)。

 HLA遺伝子が作るHLA分子の主な機能は、自己とは異なる外部から侵入した細菌やウィルスなど、健康を脅かす非自己の病原体を探して選別し、感染した細菌やウィルスの断片である病原体由来ペプチドを結合して、Tリンパ球に提示することにより、免疫の働き手であるキラーTリンパ球や、Bリンパ球などの免疫監視システムに、その危 険情報を伝えます。

 すなわち、このペプチドの提示により、Tリンパ球やBリンパ球が活性化し、免疫機能の誘導が促されるのです。糖尿病やリウマチなどの自己免疫疾患では、自己を非自己と誤認識し、Tリンパ球が自己の細胞や臓器を攻撃することから発症すると考えられて います。

 また、免疫機能ではこれらの情報を記憶して蓄積するため、再び入ってきた異物に対して効率よく免疫機能を発揮します。このように、HLAは疾患と大きな関わりを持ち個々の健康を守るだけではなく、ひとりひとり異なる型があるからこそ、集団発生する感染症などから、ヒトを集団として維持するといった、人類が生き残るために必要な機能であるとも考えられます。

HLAタイピング

 HLAタイピングは、移植の適合性検査や、がん免疫療法、疾患の診断、薬剤副作用の予測などの臨床検査として広く用いられています。
造血幹細胞移植や臓器移植では、免疫監視システムが異物と認識して拒絶反応を起こさないように、患者と造血幹細胞や臓器を提供するドナーのHLA型が一致する必要があるため、HLA遺伝子の型がわかれば移植の成否を予測することができます。

 また、近年注目されるようになったがん免疫治療では、効果が期待できるHLAの型がそれぞれのペプチドにより決まっているため、HLA検査が必要となっています。

 さらに、HLAと疾病との関連研究により疾病を発症しやすいHLAの型が明らかになっている疾病もあり、自身の持つHLAの型が、どのような病気を発症するリスクがあるのか調べることで、高リスクのHLA型を持っている場合でも必ず発症するわけではありませんが、将来の疾患予防に役立てることもできます。

 また、ある種のHLA型をもつ患者が、致死にも至る重篤な副作用をしめす薬があることもわかってきました。このように、薬の選別を行う場合に患者のHLA型を検査することにより、薬の副作用を未然に防ぐことにもなるのです。

HLAタイピングの展開

 HLAタイピングは臨床的診断への応用も期待されているほか、現在では、疾患患者の治療として、その疾患の異常な細胞をiPS細胞由来の健康な細胞に置き換える新しい治療法が計画されていますが、このiPS細胞による治療も移植医療の一つです。

 今後は、個々の患者由来のiPS細胞の作製に代わり、日本人に多くみられるHLA型を網羅したiPS細胞バンク作製が予定されています。
これによって、あらかじめ安全性が確認されたiPS細胞を用いた種々の疾患の細胞移植治療などの迅速化と低価格化が期待されます。

 このように、再生医療分野でもHLAタイピングの必要性が高まり、日常検査としてさらに普及していく可能性があります。

HLAの構造と種類

 HLA分子は、その構造や機能の違いにより、HLAクラスI分子とHLAクラスII分子に、また発現部位や機能の違いにより、古典的HLA分子と非古典的HLA分子に分けられます。

 古典的クラスI分子 (HLA-A, HLA-B, HLA-C) は、ほとんどの有核細胞と血小板で発現されているのに対して、古典的クラスII分子 (HLA-DR, HLA-DQ, HLA-DP) は、抗原提示能を持つマクロファージ、樹状細胞、単球、B細胞に発現されています。HLAクラスI分子は、45 kDの糖鎖をもつα鎖と12 kDのβ2ミクログロブリンが細胞膜表面で非共有結合をした糖タンパク質です。

 一方、HLAクラスII分子は、34 kDの糖鎖をもつα鎖と28 kDの糖鎖をもつβ鎖が細胞膜表面で非共有結合をした糖タンパク質です。
古典的クラスI分子ではα鎖が、古典的クラスII分子では特にβ鎖が高度な多型性を示します。

ヒトゲノムとHLA

 ヒトゲノムとは、ヒトの設計図とも言うべき、人間の生存に必要な遺伝子情報全体のことです。ヒトゲノムの本体は23対の染色体からなるDNAであり、このDNAは、バーコードのように連なった4種類(A/アデニン、G/グアニン、T/チミン、C/シトシン)の塩基が組み合わさり、遺伝情報を構成しています。

 この4文字の並び方である塩基配列には生命の謎が隠されているのです。ヒトゲノムには、約30億個の塩基が含まれていますが、チンパンジーとヒトはこのうちの98%が同じで、ヒトに至っては、99.9%が同じです。

 つまり、この0.1%で私たちそれぞれの個人差が生じていることになります。2003年4月、ヒトゲノム全塩基配列の解読が完了し、近年の研究で、ヒトゲノムの全貌が見え、この塩基で構成される遺伝子の中で、遺伝情報として意味のある遺伝子約2万 3000個の存在が明らかになりました。

 しかし、それぞれの遺伝子の役割は完全には解明されておりません。遺伝子内の塩基配列の一部が異なると、それが様々な違いとなって表れますが、配列の違いにおいて、遺伝的で特異な疾患の場合などの配列の違いは「変異」(一般的には集団内での頻度が1%以下と稀な場合、変異と呼ばれます。例えば、日本人集団におけるハンチントン舞踏病のよう稀な疾患の遺伝子の変異)と呼ばれ、肌や体型など一般的な個性を決定する違いの場合は「多型」(一般的には集団内での頻度が1%以上である場合、多型と呼ばれます。例えば、日本人集団における赤血球の血液型遺伝子である、A型、B型、O型など)と呼ばれています。

 私たちの個人差である、約30億個のうちの0.1%の違いには、約300万個の「多型」の塩基配列が含まれており、それぞれの個性を決定すると同時に、この「多型」を司る遺伝子が疾病の発症にも大きく関わる事がわかってきました。

 我々のチームでは、この「多型」が23対ある染色体のうち、第6染色体に位置し、群を抜いて多型性に富むゲノム領域である、「HLA」遺伝子に注目し、研究開発を行ってきました。

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